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アンジェリカ 第二節22 惜別(せきべつ)
2007-12-08 Sat 21:26
 「そ、そ、それ以上寄るな化け物、こいつの命がどうなってもいいのか!?」

 エリックが目を血走らせて叫ぶ。

 ガラス片を握る手からは血が流れ、その手は震えている。

 恐らく恐怖が痛みを凌駕し、彼の理性を奪ったのだろう。

 僕はそんなことを冷静に考えていた。

 いつ、ガラス片が僕の喉を貫いてもおかしくない状態にも関わらずだ。

「貴様・・・フローラだけではあき足らずウェインまで殺そうというのか」

 父が声を荒らげた。

 あの偽神父二人が言った“祝福”を受けた後、初めて父が感情を露にした瞬間だった。

 そのとき、唐突に父以外のものから色が消え失せ、全てが停止する。

 震えていたエリックの手も、吹いていた風すらもその動きを止めた。

「これは・・・」

 父は声をあげ辺りを見回す。

 僕も周囲に視線を巡らせた。

「ケイン=ストライフ・・・お前にもう一度機会を与えよう・・・」

 声と共に現れたのはあの二人だ。

「ある一人の人間の命を絶ち、我らに捧げよ・・・」

「エリック=クレイダーの命を差し出せばよろしいのですね!」

 父が歓声に近い声を上げる。

「そのような下賎な者の命など最早何の価値も為さぬ・・・我らが欲するのは他でもないお前の息子・・・」

「ウェイン=ストライフの命・・・」

 二人の言葉に父の顔の明らかな動揺が走った。

「そんな・・・息子以外なら誰でも捧げよう・・・だが、息子だけは・・・」

二人は虚ろでありながら残酷な笑みを浮かべて父を見下ろしている

「この結界が解けるのも時間の問題、そうすればあの男は容赦なくお前を殺すだろう・・・」

「さあ、捧げるのです・・・自分の愛するものを」

「汝にとって価値ある魂を」

 父はゆっくりと立ち上がった。

 その目からはとめどなく涙が零れ落ちている。

 そしてその手に剣が現れる。

 父はゆっくりと僕に近付き僕に剣を突きつける

 その顔は悲しみと苦しみに歪んでいた。

「ウェイン・・・」

「・・・いいよ、父さん、それで父さんが楽になれるなら・・・・・・僕の命を絶ってくれ」

 僕は父に微笑みかけた。

 驚くほど、僕の心は穏やかだった。

 父はさらに表情を歪める。

 父の体に罅(ひび)が入り崩れ落ちるとともにあたりの景色に色が戻り始める。

 そして、僕の目の前から剣がゆっくりと下がっていく。

 それとともに父は両膝を床に付いた。

「父さん・・・」

 僕が呟いたとき、白い炎が音もなく父の体を包んだ。

「た・・・助かった・・・」

 エリックは言って僕の首から手を解く。

「父さん!!」

僕は叫んで白い炎に飛び込んだ。



僕はいつの間にか白い空間にひとり佇んでいた。

僕はあたりを見回す。

真っ白だ。

何もないただ真っ白な空間。

「ウェイン……」

突然声をかかられそちらを向くと、そこには父がいた。

痩せ細った幽鬼ではなく、以前の強く優しかった頃に父の姿がそこにあった。

「父さん」

僕は父に向き直り声をかける。

父は僕に歩み寄り、僕の頭にそっと手を載せる。

子供の頃、よくこうしてもらった事を思い出した。

「大きくなったな、ウェイン……いつの間にか私の背をもう越えていたんだな……」

父は言って微笑む。

「お前が生まれたときに母さんが亡くなったことは話したな……産婆から始めてお前の姿を見せられたとき、私は正直不安だった……本当にエリス……お前の母さんから託されたお前を育てていけるのか……と」

父の目から涙がこぼれる。

「……お前は本当に小さくて、か弱かった……フローラに比べても……だ、そんなお前がここまで立派に育ったんだな……」

僕は目頭が熱くなるのを感じた。

「父さん……」

僕は頬を伝う涙を拭う事もせず父に呼びかける。

「父さん」「あなた」

そのとき突然に二つの女性の声が響く。

声がした方を向くと、少し離れた場所に二人の女性が立っていた。

一人は姉のフローラ、もう一人は……

「フローラ……エリス」

父は二人の名を呼んでそちらに歩き始める。

 そう、それはまだ見ぬ母の姿だった。

 姉に似た美しい人だった。

「父さん」

 僕も父を追おうと一歩踏み出そうとする。

「くるな!」

 父の厳しい声音に僕は動きを止める。

 それは厳しさの中に優しさを含んだ、確かに父の声だった。

「お前はまだ来るな……ウェイン」

 父は背中越しに静に僕に語りかける。

「ウェイン、志を高く持て……そして……これからは私の背を追うのではなく……自分自身で道を切り拓くんだ……」

「父さん……」

 僕はとめどなく溢れだす涙に霞む父の背に声をかける。

 溢れるように想いが浮かんでは消えていく。

 しかし一つとして言葉にできない。

 僕は感情の洪水に成すすべなく、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。

 父は振り返り、頬に涙を伝わせたまま笑みを浮かべる。

「私は道を踏み外してしまったが、お前なら真っ直ぐに歩いていけるさ、何せお前は……私の誇りなのだから……」

 僕はやはり言葉を出す事ができず、その場で崩れ落ちる。

「ウェイン、最後になるが、すまなかった……そして…………ありがとう」

 父は言ってまた僕に背を向け歩き始める。

 次第に父の背は白く霞み、ゆっくりと輝く粒子となって消えていく。

 姉と母も同様だった。

 そして父は笑顔の姉と母に迎えられ、その姿は完全に白に溶け消えた。

 次の瞬間、白い空間が細かい粒子となって砕け散り霧散していく。

 後に残ったのは月光に照らされたほぼ崩壊したエリックの部屋と名残を惜しむかのように立ち上っていく、いくつかの白い光の粒子。

 そして……父はいなかった。

 さっきの出来事が夢でなかったのは頬を伝う涙が物語っていた。

 それが、父がもう世界のどこにもいないことを僕に痛感させた。

「とうさあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーん!!」

 僕は喉から叫びを迸らせた。

 胸に穴が開いたような喪失感を埋めるように。
 



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この記事のコメント
愛する者の命を差し出せとは、無茶をいいますねー。
悪の道も大変!(><);
2007-12-08 Sat 22:09 | URL | Michi #goVLvfsE[ 内容変更] | top↑
 こんばんは。お邪魔しております。
 このシーン、切り取られたような空間、エリックの出る幕なし、ですね。
 さすがにお父さん、理性を失くしてなかった――
 最期、男らしい父親でしたね。別れは辛いですが、ウェイン君もこれできっと救われます。
 ハッピーとは言い難いですが、それでもちょっぴりハッピーな気分にさせられました。
 
 
 
2007-12-08 Sat 23:21 | URL | 紗羅の木 #EBUSheBA[ 内容変更] | top↑
いらっしゃいませw
Michi さん
お父さんは愛ゆえに狂い、愛ゆえに逝きました。
この物語においても現実においても何が”悪”なのかは私には分かりません。
マシュウも見方によっては十分悪に思えますし;;
でもお父さんが人としての道を踏み外したのは確かなのでしょうね。

紗羅の木さん
いらっしゃいませw
このシーンにエリックは要りません(をぃ
何せ”下賤なもの”ですから(本気
お父さんは美学を持って生きていた人です。
ですがそれが裏目に出てしまった……そこを付け込まれたともいえるかもしれません。
「剣の代償」はあまりに高価だったようです。

このシーンは実のところ追加です(をぃ
石和さんのリクエスト兼最後に救いらしいシーンを入れたくて、こうしました。
切ないですけどね。
2007-12-08 Sat 23:51 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
・・・おとーさん・・・・・
なんて男らしい・・・・・
感動しました・・・・・
エリック・・・・
なんて情けない・・・・・・
2007-12-08 Sat 23:56 | URL | ウィスペル #-[ 内容変更] | top↑
おとーさん、

ウェインを殺さないでくれてありがとう

エリック、

頼むから死んでくれ帰ってくれ
2007-12-09 Sun 00:25 | URL | 紅影死神 #-[ 内容変更] | top↑
ウィスペル さん
ウィスペル さん
おとーさんは”漢(おとこ)”です(何
エリックは……おと-さんと真逆ですな;;

紅影死神さん
おとーさんは人間を捨てきる事ができませんでした。
でも、その弱さが人間性なのかもしれませんね。

エリック……Go to HellでなくHome
ですね;;
2007-12-09 Sun 00:25 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
おと~~~~~さぁぁあぁあああん!!!
息子を思う最高の親父だったんですね!
かっこいい最後だった!感動した!

さて…次からはエリックお楽しみタイムですねw
2007-12-09 Sun 03:12 | URL | 蒼月樹 作也 #KtOtvm9U[ 内容変更] | top↑
おとうさんは最高の父でした。
だからこそウェイン君は父の背を安心して追えたのかもしれません。
感動したといってもらえてかなりうれしいです(ウィスペルさんにも感謝!




2007-12-09 Sun 08:33 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
コピペ改ざんで済まない。だがこのカレーを試してみたくなりました。
 

「そ、そ、それ以上寄るなこのカレー野郎、こいつの舌がどうなってもいいのか!?」

 エリックが目を血走らせて叫ぶ。

 スプーンを握る手の一滴のスープが揺れ、その手は震えている。

 恐らく未知の味への恐怖が嗅覚を凌駕し、彼の理性を奪ったのだろう。

 僕はそんなことを冷静に考えていた。

 いつ、そのスプーンが僕の口に突っ込まれてもおかしくない状態にも関わらずだ。

「貴様・・・フローラだけではあき足らずウェインまでカレー味に落とそういうのか」

以下略

 ラストの救いに感謝。
 エリックはほっといても自滅するだろうけど…
2007-12-09 Sun 14:53 | URL | ぬこ #Tf9aLMeg[ 内容変更] | top↑
 ラストの父親に感動しました。まだ全ての感情を失ったわけじゃなくて人間らしさが残ってたんですね。

 謎の二人組が今後の話にどう関わってくるのか楽しみです。
2007-12-09 Sun 16:35 | URL | 鳥吉 #026aT6s6[ 内容変更] | top↑
ぬこ さん
最近訪問が滞ってスミマセン;
カレー!wwwww
カレー、それはインドの神秘、多くの種類のスパイスと具材によって織り成される味の宇宙!
……すみません;;;
それほどカレーに拘りがあるわけでもないことをここでことわっておきます;

やはりここは必要なシーンでしたね、エリックにもっと下らない事を囀(さえず)らせようと思いましたが思いとどまりました。
エリックがどうなるかは、一応今は内緒という事で。




2007-12-09 Sun 16:36 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
鳥吉さん
感動したとのお言葉に感謝です。
お父さんは最後の最後で踏みとどまりました。
人によってはそれを弱さというかもしれませんが、これこそが人間らしさなのではないかと思っています。

謎の二人……またシーン追加せにゃ(をぃ

2007-12-09 Sun 16:44 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
・・・・・・・・・・俺の親も、こんなふうだったらいいな~~
2007-12-11 Tue 19:03 | URL | www121 #-[ 内容変更] | top↑
ケインさんはよき父なんだろうねw
でもこの親父さん遊ばせてはくれそうにもないよ;
厳しい人だからね;
2007-12-12 Wed 19:41 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
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