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アンジェリカ第一節④ 再会(さいかい)
2007-08-14 Tue 19:22
 夕日で血の色に染められた聖都は、やはり静かだった。

 不気味さを湛えたその光景に、私は不安に駆られる。

 道を行く人影はなく、通りを生暖かい風が通り抜けていく。

 知らず知らずのうちに歩調が早足になる。

 そして、通りにいくつかの人影を確認する。

 私は一旦立ち止まり、恐る恐るそちらに近づくと、それは五人の修道女だった。

 私と同じ黒尽くめの格好に首からかけている聖印・・・

 彼女達は、失踪した修道女見習い達だった。

 私は彼女達に駆け寄る

「無事だったのね、皆……」

 私は彼女らに話しかける
「ええ……」

 一人が答える。

 シスター・アンだ。

 だが、何かがおかしい。

 全員表情を変えないのだ、眉一つ動かさない。 

「どうしたの……皆……?」

 私は問いかける。

 普通に考えればお互いの無事を喜び抱き合っていても不思議ではい。

 私は改めて彼女達を見る。

 全員見覚えがある、確かに同僚達だ。

 しかし、タニアの姿だけは見当たらない。

「タニアは……?」

「先に帰って待っているわ、さあ、私たちも帰りましょう」

 私の問いに、まるで棒読みのようにシスター・アンが答え、手を差し伸べてくる。

 私は頷こうとしたが、あることに気付く。

 彼女たちはずっと目を開けたまま、瞬(まばた)きをしていないのだ。
私は半歩身を引き。

「あなた達、何者なの……」

 私の問いに彼女たちは暫くただ黙っていた。

 しかし、突然にシスター・アンが私の腕を掴んでくる。

 その握力は明らかに女性、いや人間のものではなかった。

 そして、アンが私を引き寄せようとしたとき

 ビュウッ

 突然私とアンの間を何かが風を切って横切り、アンの腕が半ばから切断され、それとともに手も私から離れ落ちる。
あまりのことに私は声すら出せなかった、いや、思考が現実についてこない。

私はアンの腕の断面をただ見つめていた。

 傷口から血が流れ出し、地面にできた血溜まりで落ちた腕がまだのた打ち回っている。

 あまりに衝撃的な出来事に頭が真っ白になる、悲鳴すらも口から出てこない。

「よう、物騒なお友達と遊んでるじゃねえか、俺も混ぜろよ」

 男の声が、私を現実に引き戻す。

 声のした方を向くと、そこには棺を担いだ異様な影、あの白尽くめの男がいた。

 夕日に染まるその姿は、まるで全身に血を浴びたかのようだ。

 男は凄絶な笑みを浮かべ

「知ってるか、こういう血の色の夕日の時のことを、どう言うか…?」

 男の問いに私はただ呆然と視線を返す。

「逢(お)う魔(ま)が刻(とき)だ」


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


男は言ってマントから異形の左腕を出し、走り出す。

それが開戦の狼煙(のろし)となった。

元修道女見習い達もどこからか剣を取り出しそれを迎え撃つ。

最初に男に斬りかかった一人の剣と男の異形の腕がぶつかる。

しかし男の腕は剣とぶつかったことなどお構いなしで突き進み、深々と鋭い爪を彼女に突き立てる。

その両脇からそれぞれ一人ずつ修道女が男に襲い掛かる。

男は左から来る一人に異形の手を翳す、その手には当然、最初に貫いた一人がついたままだ。

一人の剣は彼女を貫くものの、男までは届かない。

男は開(あ)いている右手でいとも容易くその背に棺を固定している鎖を引きちぎり、握った鎖はそのままに右手を振るう。

薙ぎ払われた棺をもろに受けた一人は、数メートル吹き飛んで壁に叩きつけられる。

次の瞬間男は左方向に足を一歩踏み出す。

ズゥン

重く大地が震え、地面が陥没するほどの勢いで踏み降ろされた足と共に突き出された異形の腕が、貫いていた一人をさらに貫き、いまだ剣を持ったまま次の行動に移っていない一人に突きこまれる。

かくして修道女二人の串刺しという悪夢のような画(え)が完成する。

「おおおおぉぉぉあああぁぁぁ!!」

男は叫び、無理やりに左腕を手近な壁に叩きつける。

二人の体が壁にめり込み男の服に返り血と壁の破片が飛び散った。

まだ体勢を立て直していない男に、間髪いれずアンを含めた残る二人が襲い掛かる。

男は棺を投げ捨て、懐に右手を差し込む。

次の瞬間には男の手は振りぬかれていた。

一人が突然進行方向とは逆に吹き飛び、私の傍らを通り過ぎていく。

振り向くと、彼女は胸を剣で貫かれ、壁に縫いとめられていた。

柄が体にめり込んでいることからも、どれだけの膂力で剣が投擲(とうてき)されたのかは想像し難い。

目を戻すと、男はアンの胴体を異形の腕で捕らえていた。

アンは男の腕に剣を突き立てようとするが、剣の切っ先は異形の皮膚に傷一つ入れることもできない。

男は口の片端を上げる。紅の夕日を受けたその笑みは、地獄から来た悪魔を思わせた。

グシャッ

 男は、何の躊躇も無くアンの胴体を握りつぶした。

 夕焼けの中に黒い華が咲く。

 私は言葉もなくその場でへたり込む。

 人間技ではない。

「手ごたえがねぇな、まぁ、操り人形程度じゃあ、この程度が限界か」

 返り血にまみれた姿で男は棺を拾い異形の腕を振るって付いた血を飛ばす。

 そして、何かに気付き視線を巡らす。

「……もう一匹……お前がこいつらの親玉か、今度のは楽しませてもらえそうだ」

 男は言って私に……

 いや、私の後ろに目を向ける。

 私ははじかれるようにして振り向いた。

「タニア……」

 そして、私はすぐそこにいた少女の名を口にした。

「ケイト、帰りましょ、皆心配してる」

 タニアは微笑み、私に手を差し出してくる。

「タニア……」

 私はもう一度彼女の名を口にし、タニアに歩み寄ろうと立ち上がる。

 しかし、突然に後ろから右手を掴まれ強引に引っ張られる。

「きゃああっ!?」

 私は悲鳴を上げて投げ出される形で転倒した。

「残念だが、そう簡単にこいつは渡せねぇな、こいつを連れて行きたいなら、俺を殺していくんだな」

 ここからではよく見えないが、男は笑みを浮かべたようだった。

 タニアは顔から表情を消す。

 次の瞬間

 男の胸元が突然爆発し、私の傍らを男が吹き飛んでいく。

ドカァッ、ガラガラガラ

 振り向くと、男は家の壁を砕き屋内の暗がりに消えていた。

「さあ、ケイト、帰りましょ」

 再び手を差し出してくるタニアから私は身を引く。

 タニアは少しの間黙っていたが、手を下ろし

「仕方ないわね、力づくでもついてきて…」

 そこまで言ったタニアが、先程男が吹飛んでいった方に目を向ける。

 私もそちらに目をやると、瓦礫(がれき)が動く音が暗がりから聞こえてくる。

 そして、闇に赤い二つの光点が灯る。

「勝手に話しを進めてもらいたくねぇな、俺は生きてるぞ」

 男はその表情に凶暴な笑みを湛え姿を現す。

 服はボロボロで、マントなどはもう千切れている。

「…しつこい男は嫌われるわよ……」

 タニアの言葉に、男は口の片端をさらに上げ

「そいつは光栄だ、俺もテメェらが大嫌いだからな……」

 バチィン

 そんな音が響く。

 男が棺に巻かれた鎖を切ったのだ。

 解けた鎖が地面に落ちてあたりに金属音を撒き散らす。

 男は戒めの解けた棺の蓋を外し、投げ捨てた。



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2007-10-27 Sat 09:45 | | #[ 内容変更] | top↑
おつかれさまです。
またいつでも来てやって下さい。
お待ちしております。
2007-10-28 Sun 09:07 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
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