アンジェリカ第三節12 月雫(しずく)
2008-03-15 Sat 19:51
「オレがもう一度そいつを死体に戻してやるよ」

 男は口の片端をさらに上げて笑みを深めた。

「アレン、逃げるぞ!」

 ジャンは隠し持っていたナイフを男に投げつけると同時に叫ぶ

 それを合図に、ぼくたちは男に背を向け駆け出す。

 そして、路地を引き返し違うルートへとジャンが導く。

 しかし、妹を抱えているぼくは流石に体力の限界を迎え、立ち止まってしまう。

「アレン!」

 それに気付いたジャンが立ち止まってぼくに歩み寄る。

「ここからは俺がエミリちゃんを連れてく、走れるな?」

 ジャンの問いにぼくはどうにか頷く。

「よし、いく」

「鬼ごっこはもう終わりだ」

 ジャンの言葉を遮りその言葉は降ってきた。

 ぼくたちが反射的に見上げると、家の屋根の上にあの男が陣取っていた。

 男は何の躊躇もせずそこから降り立ち

「おとなしくそいつを置いていけ、そうすりゃお前らには手出しはしねぇ」

 男は静かに歩み寄ってくる。

「う・・・うおおおおおおお!!」

 ジャンがナイフを抜き放ち叫び声を上げ男に突進する

「ジャンっ!」

 ぼくは呼び止めようとするが、ジャンは男に襲いかかった。

 男の右拳が突進するジャンを痛打しジャンは吹飛んで倒れた。

「ジャーン!」

 ぼくは叫んだ。

 ジャンは倒れたままピクリとも動かない。

「心配しなくても死んじゃいねえよ、もっとも無事でもねぇがな・・・さあ、そいつを渡せ」

 男は言ってぼくのほうに歩いてくる。

 ぼくは逃げようとするが体が金縛りにでもあったように動かない。

(殺される)

 ぼくがそう思ったとき、エミリがふらつきながら立ち上がる。

「なんだ、やるってのか?」

 エミリの体からあの不自然に出てきた霧と同じものが立ち上り始める。

 霧は次第に広がり形を成していく。

 それと供にエミリの体がゆっくりと宙に浮かび、やがてその背から霧でかたどられた翼広がり、周囲に渦を巻く一筋の霧の円環がその姿を顕す。

 エミリ自体にも霧がまるでドレスのように纏わりついている。

 いつの間にか紅の刻は過ぎ去り、先ほどまでの禍々しい光景がまるで嘘のように蒼白い月の光が振ってきている。

「な……」

 月光の色のドレスを纏ったその姿に、ぼくは思わず声を漏らした。

 自分は、夢でも見ているのだろうか。

「……最初遭ったときからすれば、ずいぶんと控えめになったじゃねぇか……それで俺とやりあえるとでも思うか?」

 男は口元の笑みを深めエミリに問う。

 エミリはそれに答えず、男を睨む。

 霧の中に煌きが見え始め、冷気が吹き付けてくる。

 霧から輝く粒子が振りまかれ、煌きは急激に成長し幾つもの氷塊と化す。

 男はそれを見てマントの中に右手を入れ、一振りの剣を取り出す。

 エミリが手を薙ぐと、巻き起こった烈風と供に鋭い氷塊達が男へと殺到する。

 たなびく白銀の髪と紅い布の端そして白いマント……吹き付ける冷風と供に目前に迫る氷塊を前に男は露になった異形の左腕と右手の剣を幾度も振るう。

 空を裂く音と供にすさまじい速さと圧倒的な破壊力を持って振るわれるそれらが、連続する甲高い破砕音と共に氷塊を打ち砕いていく。

 長い白銀の髪を振り乱し、舞うかのように躍動する男の姿を咲き乱れる幾つもの氷の華と爆ぜ散り煌く月の雫が彩る。

 その光景は、美しいとさえいえた。

 氷塊の乱舞が終わり、男の髪とマントと紅い布の端が静かに降りる。

 静謐な月の光の下で死を暗示するその姿は、強すぎるその存在を誇示している。

 手に持った剣は最早ボロボロになってはいるが、男自身はまったくの無傷だった。

「なめるなよ、そんな使い古した攻撃が俺に通用するかよ」

 男はその目に紅い光を点し、エミリを睥睨する。

 その姿に疲れは微塵も感じさせない。

 それに対しエミリは苦しげな表情を浮かべ息を上がらせている。

「おいガキ、命が惜しけりゃそこを退け、邪魔だ」

 男がぼくを睨み言う。

 ぼくは息を飲む。

 するとエミリがその体を空高く浮かび上がらせる。

 バチッ……バチバチィッ

 廻る霧の円環の中で光が明滅する。

 エミリが手を頭上にかざすと、そこに明滅する光が集まっていく。

 迸る稲妻を伴い光の玉は大きくなっていく。

 それが放たれんとしたとき、エミリに向けて男が手に持った剣を投げる。

 軽く放るようにして投げられた割に、それは空高く舞った。

 すさまじい轟音と供に放たれた雷は空中の剣に直撃し、激しい音と供にあたりに光を撒き散らす。

 そして、剣は本当の意味でその役目を終えて回転しつつ宙を舞い、地面に突き立つ。

 剣は煙を上げ、焦げ臭いにおいを辺りに立ち込めさせた。

 エミリを見ると、その纏っている霧が薄れ、ふらつきながら高度を落としていく。

 やがてエミリは支えを失い落下を始める。

 ぼくはあわてて体を張ってどうにかエミリを受け止める。

 エミリは高熱を出し苦しんでいた。

「さて、止めを・・・」

 男はそこで言葉を切る。

 ぼくが男に目を向けると、男はエミリを見ていないようだった。

 ましてやぼくなど見ていない。

 ぼくらより後ろにいる何者かを見ているようだった。

 ぼくはゆっくりと振り向く。

 少しはなれた場所に女性が立っていた。

 長く黒いまっすぐに伸びたしなやかな髪、息を呑むほどに美しい顔立ち・・・

 細く控えめだが美しい体のラインに闇色のドレスを纏い、その上に医者が着るような白衣を羽織っているという、風変わりないでたちだ。

 その足元にジャンが横たわっていた。

 ぼくは慌ててジャンが先ほど倒れていた場所を見る。

 そこにはジャンの姿はなかった。

 ぼくは視線を女に戻す

 ぼくはもちろんのこと白尽くめの男すら気付かせず、さらに一瞬でこの女はジャンを移動させここに現れたというのか・・・

人間のできることではない。

「久しぶりね・・・それにしても、ひどいことをするのね・・・子供をぶつなんて良識ある大人のやることじゃないわ」

 女は微笑を浮かべて細く繊細な指で長い黒髪を右手で後ろに流す。

 月の光に髪が広がり煌く。

「サニア・・・」

 男は女の名らしき言葉を呟いた。


う〜ん、今回のタイトル付けはムズかったです;
かなり無理やり;;



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この記事のコメント
ジャンがピンチ!?
何やら敵が本性を出してきたようですね、恐いです…次回は更なるバトルが!?
しかしアレンは(ジャンも)今でも現実から逃げているように見えてイライラします。つらい現実を乗り越えて強く前に歩いて欲しいです。
2008-03-15 Sat 22:50 | URL | .TETSUYA #-[ 内容変更] | top↑
ついに本格始動ですねw
バトルな予感
これからの展開を更に楽しみにしてますw

今はジャンよりアレンの方が危険かも?

2008-03-16 Sun 01:49 | URL | 蒼月樹 作也 #sSHoJftA[ 内容変更] | top↑
TETSUYAさんへ
第四節からタイトルつけるのやめましょうかね;

ジャンやられちゃってます;
今回バトルシーンが少し少ないです;
申し訳ない;;

アレンとジャン……そうですね、二人ともとらわれてます。
さてこの二人がここからどう物語を織り成すのか。最後までお付き合いいただければと。
2008-03-16 Sun 07:57 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
蒼月樹 作也さんへ
バトル……;
う〜ん期待に添える展開かどうか;;;
予感とかを裏切る作品のようなので;

アレンもかなり危険です。
新しく登場した女性は……
2008-03-16 Sun 08:02 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
 おお! この回だけタイトルが異彩を放っているように思えます。
 んで、綺麗な表現が至る所に散りばめられてますな^^
 こういう文は私好みなので楽しませて頂きました!

 サニアさんからはかなりマッドな匂い(?)がします。
 続きwktkです(^ω^)

 さて、こちらもそろそろブログ活動に戻ろうかと思います;
 前にも似たようなことを言った気がしますがw
 ではでは、また近いうちにノシ
2008-03-16 Sun 17:32 | URL | ミミック #t5k9YYEY[ 内容変更] | top↑
ミミックさんへ
タイトル苦しいです;

ああ、お褒め頂いて。
お褒めの言葉……恐縮です
戦闘シーンはキャラの動きよりエフェクトに力を入れております(文章でエフェクトて;

お、その匂いを嗅ぎ取っていただけましたかw
この人(?)かなり……

これからのブログ活動楽しみにしております。



2008-03-16 Sun 19:04 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
タイトル
キレイなタイトルですよ。
謎の女性の髪が月の光を受けて…、みたいな情景が目にうかぶ、…かも。
白衣もカッコイイですねえ。
白衣って、けっこう暖かいんですよ。
高校の頃使っていたんですが、卒業後もそのぬくさにすがって、実家で羽織っていたものです…。下はドレスではなく、パジャマでしたが…(泣)。
2008-03-17 Mon 00:46 | URL | 石和 仙衣 #pcEsqDro[ 内容変更] | top↑
石和 仙衣さんへ
キレイとの言葉、ありがとうございますっ
お世辞でもうれしいですよ〜w

白衣って暖かいんですね。
パジャマ……家でドレス着てる人はたぶんいないのでそれでいいかとww

2008-03-17 Mon 20:29 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
遂に旦那が本格始動開始ですね。

ジャンがあまりにあっけなくやられたのにも驚きましたが、本性を現したエミリにも仰天です。

 最後に出てきた女性は・・・・雰囲気的には敵の匂いがしますが・・・どういう関係なのか楽しみです。
2008-03-20 Thu 14:13 | URL | 鳥吉 #026aT6s6[ 内容変更] | top↑
旦那、やっと戦いました;

ジャンはいくらできるといってもマシュウから見れば所詮人間の子供です。

エミリは……ま、とりつかれている状態ですね
最後の女性、かなり昔のマシュウさんの知り合いです;
だいたい100年と少し前くらいの(をぃ
2008-03-20 Thu 14:53 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
 こんばんは。
 ご無沙汰しております。久し振りにパソの前に座っているのですが、ご訪問の御礼、大変遅くなってしまったようです。
 そろそろ桜のシーズンですが、いかがお過ごしでしょうか。こちら貧乏暇なしというところですが(笑)
 
 怪しくも美しいサニアとマシュウの対面、とても耽美的でした☆ 誰一人入る隙がないようなシーン――サニアという女性に興味をそそられてます。
 次回も楽しみにしてますよ☆
 
 

 
   
2008-03-21 Fri 04:10 | URL | 紗羅の木 #EBUSheBA[ 内容変更] | top↑
紗羅の木 さんへ
いえいえ、こちらこそそちらになかなかコメントを置かず、すみません。
桜……もうそんな季節なんですね……
私も沙羅の木さんと同じようなものでしょうか……
お忙しくなさっておられるようで、お体には気をつけて。

サニアさんはおっしゃるとおり妖しくも美しく、そして危険なお方です。
結構マシュウの過去と深くかかわっているかも、です。
次回もお付き合いいただければ幸いです。
2008-03-21 Fri 19:19 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
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