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2008-03-22 Sat 18:59
「久しぶりね・・・それにしても、ひどいことするのね・・・子供をぶつなんて良識ある大人のやることじゃないわ」
女は微笑を浮かべて細く繊細な指で長い黒髪を両手で後ろに流す。 月の光が粒子となって散ったかのように髪が広がり煌く。 「サニア・・・」 男は女の名らしき言葉を呟く。 「驚いているようね……あの頃は人間を装っていたし、無理もないのかしらね……改めて自己紹介をしようかしら、私の名はサニア、”聖天使より福音を賜りし十二人”の一席にして、“解放者の派閥”に名を連ねているわ……それにしても、名前を覚えてくれているなんて感激だわ・・・今なら無条件で私の眷属にしてあげる、そうすればたっぷり可愛がってあげるわよ」 女は微笑を男に向ける。 「誰が進んで負け犬の仲間入りなんぞするかよ・・・それにしても、その名も高き十二使徒とこんなところで拝謁が叶うとはこちらこそ感激の極みってやつだな」 男は言って口の片端を上げ背負っていた棺を地面に置く。 そして、絡められている鎖を異形の左手の爪で弾く。 すると、いともたやすく鎖は千切れ、金属音を辺りに振りまいた。 そして、蓋が倒され棺の中が露になる。 中に入っていたもの・・・それは何だろうか。 知っているもので一番近い形を言うなら剣だろう、だがその形状は剣というには異質すぎた。 その刀身は炎をそのまま固めたような形をしていた。 男はその白い炎を構える。 「まだ・・・その子に縛られているのね・・・」 サニアは物憂げに瞼を伏せる。 「でも、懐かしいわね・・・あなたはその子に出会い獣から真の意味で人になった・・・私はただの傍観者だったけど、あの頃は楽しかった・・・もう少し、あのまま占い師とした生きていくのも悪くなかったと今でも思うくらいに」 「昔話なんざ、聞きたかねぇな」 男は剣を構えたまま拒絶の言葉を紡ぐ。 「あなたはその子から優しさを教わり、愛を受け、愛を知り、真にあなたもその子を愛し慈しんだ・・・」 サニアは男を無視して言葉を続ける。 「でも、それも長く続かなかった・・・あなたは滾る憎悪と供にその身に“賢者の石”を受け入れ、その子を繋ぎ止め手にとった・・・それはあなたの優しさゆえ・・・あなたの愛ゆえの過ち・・・」 男は言葉を棄て、地を蹴り剣を振り上げてサニアに肉薄する。 男が剣を振り下ろしサニアを捕らえようとしたそのとき、サニアの姿が掻き消える。 次の瞬間にはぼくの傍らにその美貌の女性は佇んでいた。 音ひとつなく、瞬きひとつする間もなく彼女はここに移動していた。 さらに言えばジャンの姿もぼくのすぐ近くにあった。 「あなたは強すぎるのよ」 サニアは改めてそう切り出す。 「弱くあることもこの世界では罪・・・でも強すぎることはそれ以上の悲劇よ・・・あなたは人間から見れば異質すぎる、そしてあなたの心は強すぎる、あなたはその強さがある限り決して膝を折ることが許されない、狂気にも染まれない・・・人となってからあなたの歩んだ百数十年はさぞや苦しい道だったでしょうね」 サニアは少し言葉を切りマントに隠された左腕に目を向け瞼を少し伏せる 「その異形の姿はもちろん・・・あなたの怒りも、悲しみも・・・愛も、優しさすらも・・・そう、その存在自体があなたは強すぎる・・・だから人間にあなたを受け入れることはできない・・・人間は決して異端を受け入れることはできない、それはあなたが一番知っていることでしょう、違うかしら?」 沈黙する男にサニアは微苦笑を向け言葉を続ける。 「あなたに必要なのは人間の優しさと愛ではないわ・・・深い絶望と狂気こそあなたには相応しい・・・もう一度いうわ、私と供に来なさい・・・私なら、あなたをその呪縛から解き放ってあげられる・・・」 サニアは男に片手を差し出し微笑んだ。 男はうつむき黙り込んでいたが、ゆっくりと顔を上げて目に鋭い光を宿し口の片端を上げ、改めて剣を構えなおす。 その鋭い眼差しに迷いは見えなかった。 「・・・お喋りの時間は・・・終わりか?」 男の言葉にサニアは微笑を苦笑に変えてゆっくりと手を下ろす。 「・・・ベッドの上でなら相手してあげてもいいけど、そっちの方だと、はっきり言って今のあなたじゃ役不足ね・・・」 サニアは言って艶然と微笑む。 「それに、もう少しあなたを焦らすのも面白そうだから・・・今回はおあずけ」 サニアが言い終わるのと同時ぼくの視界がぶれる。 次の瞬間見える景色が変わっていた。 そこは街の郊外だった。 その場にいるのはぼくとエミリ、気を失っているジャンとサニアと呼ばれた女の四人だ。 白尽くめの男はどこにいったものか居なくなっている。 いや、多分ぼくらのほうが移動したのだ。 「その娘は君の妹なの?」 サニアの問いにぼくは身を強張らせる。 「あら、そんなに怖がらなくてもお姉さんは君をとって食べたりしないわ」 言ってサニアは笑い、こちらに歩み寄ってくる。 それとともに漂ってきた甘い香りが鼻腔をくすぐる。 その香りに僕はあたまが少し痺れたように思えた。 「それにしても、情けないわねカミラ・・・」 サニアの言葉にエミリが少し反応する。 「君も分かっているとおもうけど、この娘はもう君の妹じゃないわ・・・この子の正体は霧の・・・あなたたちの言い方だと化け物になるかしらね、人間の中に入り込みその人間の記憶や思考パターンを読み取って・・・そう、簡単に言うとその人間を丸ごとのっとれる力を持っているわ、本来の力さえあれば複数の生きている人間さえ操れるけど、今は見たとおり死体しか操れない」 サニアの説明を聞きながら僕はエミリを見つめていた。 「力が回復しきらないうちに無理をして力を使ったから今はそういう状態に陥っているわ、それにくわえてあの男・・・もう長くは持たないでしょうね」 「そんな・・・!」 サニアの宣告にぼくは声を上げた。 「死体が死体に戻るだけ、自然なことじゃない」 「でも・・・」 それは分かっていた、だがぼくはそう言わずにはいられなかった。 「そんなにこの娘が大切なの?」 サニアに聞かれ僕は頷いた。 「なら、一つだけその娘を引き戻す術があるわ、ちなみに今の状況を打破できる力も得られる・・・町の人にも追われているんでしょう?」 ぼくは顔を上げサニアを見る。 「聞きたい?」 ぼくは頷いた。 どんなことをしてでも妹を生かしたかった。 そう、といってサニアは笑みを浮かべる。 無邪気さと妖艶さそして危険さを孕んだ笑み・・・ 「そこで横になっているあなたのお友達・・・その子の命と今あなたの妹のふりをしているものの命、その二つを犠牲にすること・・・そうすればあなたに与えてあげる、あなたの望む力・・・“反魂の法”を」 その言葉ぼくの頭の中に大きく響いた。 アブないな、サニアさん;; ![]() ↑一日一回ポチしてください ↑さらにこちらも一日一回……; ![]() ネット小説ランキング>異世界FTシリアス部門>「アンジェリカ」に投票 ↑ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回) ↑一ヶ月に一回こちらも。(あつかましい) 次へ●第三節14 迷い(まよい) 前へ●第三節12 月雫(しずく) トップページへ |
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やはり敵さんが誘惑してきましたね。アレン、負けるな!
異質…少しでも他人と違えば受け入れることはできない。でも、人間全てがそうじゃないと、信じたいです。 おお、またもや編集直後に、ありがとうございます。
これもまた戦いかと(え 今回のお話は結構心の戦いをメインにすえている部分が多くて;;; アレンは今おかれている現実と、そしてマシュウは過去と向き合うこととなります。 一部の人はもちろん異質を受け入れられるかもしれません。 アンジェリカがそうだったように。 でも人間すべてがその器を備えているかというと…… 人間は同じ人間すら受け入れられないことがありますから; 今でも紛争などが絶えないのもここに起因するのかもしれませんね。 友人をとるか・・・妹をとるか・・・。
うわぁ・・究極・・・。 エミリの中にいるカミラって・・・旦那とはどんな関係だったんでしょうかね。 ええ、究極ですね;
こういう物語です;;; マシュウとカミラはさほど絡みはないです; あえて言うなら狩るものと狩られるものでしょうか(をぃ サニアさんの方がマシュウさんとは関係が深いですね。 ですかね…。
でも、命のやり取りに関して、まともな等価交換ってあるんでしょうか!? こういう場合、どちらを選んでも嫌な思いが残りますね。 にしても、サニアさんステキ。 ちょっとミステリアスな裏権力のある女の人って、大好きです。 そうですね、失われた命は還ってこないからこそ何物にも代えがたいものなのでしょう。
彼女との取引はまさに悪魔に魂を売るに等しい行為といえるかもしれません。 サニアさん、ステキといっていただいちゃって。 私もこのキャラクター好きなので石和さんにも気に入っていただけてかなりうれしいです。 友人か妹………
究極の選択だな なんという選択肢…
道徳的には生きている友人の命を選ぶべきなのでしょうけど… 妹を失いたくないのが本音でしょう; お、読んでくれてたんですね(をぃ
究極の選択ですね……でも妹もともと死んじゃってるんだよね;; 非情というか非道な選択肢ですね……
たまに自分が怖く;; 次回、望みと倫理の狭間でアレンは迷います。 その先に彼がどんな答えを出すのか……お楽しみに。 |
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