●第三節17 目醒め(めざめ)
2008-04-17 Thu 21:46
「・・・まって」

 呼び止めの声に男は立ち止まる。

 声の主はエミリだった。

 しかし、声はエミリのそれでも口調が違った。

 そちらを見ると、エミリはそばに立つ壁を頼りに立ち上がっていた。

「私を・・・殺していきなさい」

 僕はその言葉に衝撃を受けて目を見開いた。

「エミリ・・・」

 ぼくはエミリに歩み寄ろうとする。

「こないで!」

 その言葉にぼくは思わず足を止める。

「わかっていたんでしょう?私はあなたの妹ではない・・・」

「そん・・・な・・・」

 エミリの言葉にぼくは声を漏らす

「どういう風の吹き回しだ?」

 男は振り向きエミリに問う。

「その子を見ていてわかったのよ・・・いえ、思い出した、私が本当に望んだものを・・・そしてわかったの・・・もう、それが手に入らないことをね・・・」

 エミリだったそれは、寂しげに微笑む。

「それに、もう人を騙し自分を偽ることに・・・疲れた・・・それだけ」

 その仕草や動きにはもうエミリの面影はなかった。

「少し・・・昔話しをしたいの・・・いい?」

「好きにしろ」

 男にエミリの問いかけに男はぞんざいに答える。

「私はこの子・・・エミリに似てるのかもね、寂れた寒村に生まれ、たまたま見た目がよかったから売られた・・・私は自分の見た目だけを武器にして自由を自分で稼いだ金で買い、大勢の金持ちの下を渡り歩いて生きた・・・でも人は年を取る・・・私の武器は時と供に衰えを見せ始めた・・・私は、老いが怖かった・・・」

 エミリは苦笑し

「そして私は永遠の美貌を求め多くの人を犠牲にしてこの力を得た・・・その後私は老いかけた自分の体を捨てて、多くの体を転々とした・・・でも今考えればそれは本末転倒だったのかもね・・・手段が目的にすり替わり、私はそれに狂ってしまった・・・本当にほしかったものに背を向けてしまっていた・・・」

 エミリは視線をぼくに向け。

「力を回復するまでの間、ただ利用するだけの存在だったはずの、あなたが教えてくれた・・・私が本当にほしかったもの・・・あなたは・・・妹を演じているとはいえ、私にそれを向けてくれた・・・そして、ただ捨ててきた私には、もうそれが手に入らないことに気付いた・・・他者を否定し、自分というものを無くしてしまった存在が、それを求めるなんて・・・自分で笑えるわ・・・」

 エミリは微笑む

「人間であった頃に、あなたのような人に会えていたら・・・私の人生は変わっていたかしらね?」

 それは笑みではあったが、あまりに悲しい表情だった。

「エミリ」

「違う、私の名はカミラ・・・もう、お芝居は終わり・・・夢って、悲しいけどいつか醒めるものなのよ」

 ぼくの言葉をさえぎりエミリ、いやカミラがそうぼくに告げた。

「さあ、やってちょうだい」

 カミラは男に言って目を閉じる。

「いいだろう・・・送ってやる」

 男が言って剣を構える。

 そして、ぼくはあることに気付き自分の目を疑った。

 白い炎を模した刀身が揺らめき始めたのだ。

 それはだんだんと形を変え、ついには本物の白い炎となる。

 音もなく燃え盛る白い炎が白い火の粉を巻き上げ月光の降る淡い闇を照らし出す。

「やめ・・・ろ・・・やめて・・・くれ・・・」

 ぼくは男を止めようと歩き出す。

 しかし、男はぼくのことなどお構いなしで右腕を翻した。

 白い炎がエミリに向かって伸び一瞬にしてエミリの体を覆い尽くす。

「エミリイイイイイイーーーーーー!!」

 ぼくは絶叫した。

 ぼくはふらつく足取りで妹の許へと歩いていく。

 炎に近付いても熱気を感じることはなかった。

 炎の燃え盛る音もなく異様なほどに辺りは静かだ。

 ただぼくが体を引きずって歩く音しか聞こえない。

 男は追いかけてきてはいないようだった。

 ぼくはついに白い炎の中に入った。

 視界が白で埋め尽くされる。

 不思議と熱くない、それどころか何か心が安らぐような暖かさを感じた。

 ぼくはいつの間にか立ち止まっていた。

 さっきまで乱れていた心が嘘のように静まっている。

 痛みも引いていた。

 いつの間にかぼくの目の前に妹が立っている。

 その傍にはジャン

 二人は少し物悲しい表情をして僕を見ている。

「エミリ・・・ジャン」

 ぼくは二人の名を呼んだ。

「残念だけどさよならだ、アレン」

「お兄ちゃん・・・私、行かなきゃならないみたい・・・」

 二人の言葉の意味はわかっていた。

「行く・・・どこへ?」

 それでもぼくは問う。

 それを否定してもらいたかった。

 だから・・・聞いた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 ぼくの問いにエミリは悲しげに微笑んだ。

 ジャンも寂しげに目を伏せる。

 だが、答えなかった。

 やがて二人の姿が白い空間に溶けていく。

「待ってくれ、行かないでくれ、もう少し・・・もう少しでいいんだ、ぼくの傍に・・・」

「アレン、俺たちの分まで生きてくれ・・・」

「お兄ちゃん、これからは自分のために生きて・・・そしていつか、お兄ちゃんにとって本当に大切な人のために・・・生きてほしいの」

 エミリのほほを涙が伝う。

 どんどん二人の姿は白く霞み、その輪郭がなくなっていく。

 ぼくが二人に近付こうと一歩を踏み出したとき

 白い空間は砕け散り、突然にぼくは闇の中に投げ出された。

 名残を惜しむかのようにゆらゆらと白い火の粉が幾つか立ち上っていき、やがて闇の中に消えてい
く。

 ぼくは少しの間状況が分からず動くことが出来なかった。

 だが、目が次第に慣れてきて、ぼくの目に月影に照らし出された町外れの情景が映る。

 足元には、エミリが倒れていた。

 ぼくは蘇ってきた痛覚にうめき声を上げながらもその場で跪き、震える手で妹の体に触れると、それは冷たくなっていた。

ぼくの頬を熱いものが伝う。

「ちく・・・しょう・・・ちくしょおおおおおおお!」

 ぼくは中天に懸かる月に向かい咆えた。

 ぼくはまた、守れなかったのだ。


 今回はかなーり早めに更新;
 いろいろあって;;



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この記事のコメント
夢の終わり
人生、何が起きてどんな風に変わるかわからないものです。アレンには強くなって欲しいです。そして気付いて欲しいです。決して一人ではないということに。
2008-04-17 Thu 23:31 | URL | 零 #-[ 内容変更] | top↑
命は守れなかったけど、
アレンくんは大切な人たち一生懸命守ろうとすることで、
周りのひとたちの心の支えになっていたんじゃないかなあと、思います。
2008-04-17 Thu 23:47 | URL | 石和 仙衣 #pcEsqDro[ 内容変更] | top↑
零 さんへ
人生……難しいものですね;
もうなんかすみません;
ぼっこぼっこな展開です;;
アレンはここから立ち上がれるのか……
2008-04-18 Fri 07:00 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
石和 仙衣 さんへ
アレン……がんばりましたね。
そうかもしれませんね。
一生懸命守って支え、アレン自身も支えられていたんだと思います。
人間ってそういうものなのだと思います。
2008-04-18 Fri 07:06 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
カミラさん・・・。

なんか、悪い人には見えませんね・・・。

エミリの体のままで第二の人生というわけには行かなかったんでしょうかね・・・。

と言いますか・・・アレンが可哀相すぎる・・・。
2008-04-18 Fri 20:31 | URL | 鳥吉 #026aT6s6[ 内容変更] | top↑
鳥吉さんへ
カミラ……この人も悲しい人でした。

人を捨て、人の命を糧にする存在になってしまった彼女に人として生きるという選択肢はたぶん悲劇にしか;;

アレンは立ち直れるのか……次回、マシュウさんが;;
2008-04-18 Fri 21:37 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
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