第三節エピローグ 花束(はなたば)
2008-04-26 Sat 19:13
「ちく・・・しょう・・・ちくしょおおおおおおお!」

 ぼくは中天に懸かる月に向かい咆えた。

 ぼくはまた、守れなかったのだ。

 妹も、友までも失った。

 ぼくは、項垂れる。

体から力が抜け落ち、もう立ち上がれる気がしなかった。

ぼくは男を見る。

男もぼくを見ていた。

白い炎はもう剣の形に戻っている。

「ころ・・・せよ・・・殺せよ・・・ぼくにはもう・・・生きてる意味なんか・・・ない」

 ぼくはまた項垂れて言った。

 男が近付いてくるのを音で感じる。

 男の足と左半身を覆うマントの端がぼくの視界に入った。

 マントの端が持ち上がる、どうやらあの異形の左腕が振り上げられたようだった。

 ぼくは目を瞑る

 しかし、一向に死は訪れなかった

「・・・・・・・・・やめだ・・・」

 男の言葉にぼくは目を開け男を見上げる。

 男はゆっくりと左腕を下ろしマントの中に隠す。

「何でだよ、何で殺さないんだ・・・ジャンだって、エミリだってお前は殺したじゃないか、何でぼくだけ殺さない!」

 ぼくは男に怒りをぶつけた、だが、半面でこの男をなじるのは筋違いだということも分かっていた。

「どうして、どうしてエミリが・・・ジャンが殺されなきゃならないんだ、あんたは・・・あんたはどうしてそんなに簡単に人が殺せるんだ!、お前こそ人殺しのクズじゃないか!」

 だが、心とは裏腹の言葉が口をついて出る。

 どこからこの感情が湧いてくるのか分からなかった、だが、僕の心は怒りで支配されようとしていた。

 なにより、今のこの状況を誰かの所為にせずにはいられなかった。

「・・・そうだ、オレは人殺しのクズだ・・・だがな、あのジャンとかいうガキは、還ってきた妹をお前が受け入れさえしなければ眷族に墜ちることも、死ぬこともなかっただろうよ・・・今の状況はお前が現実から目を背け続けてきた結果だ、現実を見据えることも、何かを選びとることもできないやつは結局全てを失う・・・それが今のお前の姿であり現実ってやつだ」

 男は口の片端を上げ

「それに、なぜお前を殺さないのか・・・そう聞いたな?、いいだろう、教えてやる・・・今のお前は俺にとって道端に転がってる石ころと同じだ・・・殺す価値すらねぇ・・・俺は殺す価値もないやつに渡してやるような安い引導を持ち合わせてねぇんでな」

 男の言葉にぼくは唖然とし、そして、また怒りがぼくの中に芽生える

 ぼくは、全身全霊の力を振り絞って立ち上がる。

「・・・殺してやる・・・ぶっ殺してやる・・・」

 僕は男を睨みつけ唸るようにして言う。

「そのなりでか?、やめとけ死ぬのがオチだ・・・」

 ぼくは男の警告を無視して男に襲いかかった。

 男はあっさりとそれを止め、襟を掴んでぼくを持ち上げる。

「なかなかいい根性してるじゃねえか・・・いいだろう」

 男はいってぼくを軽く投げ落とす

「ぐあ」

 地面に身体をぶつけあまりの痛みにぼくは声をあげた。

 そして、男はぼくの前に何かを放る。

 ぼくは涙目でそれを見た。

 それは一振りの剣だった。

 何の飾り気もないごく普通の剣だ。

 男はぼくを見下ろし

「そいつをくれてやる」

 男はそうぼくに告げた。

「俺を殺すってことはそいつに生きるということだ・・・せいぜい励むんだな・・・泥水すすって醜く這い上がってこいよ・・・次に会ったとき、俺がお前を殺す価値のある男だと思ったら、そのときはお望みどおり地獄なり聖天使さまの許なりに送ってやる」

 男は地面に突き立てられている白い炎の剣を引き抜き肩に担ぐ。

「ただ、忘れるな、そいつは人間の業が生み出した最強の呪縛だ・・・その鉄の塊が“剣”の意味を成すときは、俺がお前の妹やダチにしたように、命を断ち切り絆を断ち切ったときだ・・・そしてそれを振るった者はそれに倍する呪詛と怨嗟をその身に受けることになる・・・いつもそいつはお前を試す・・・お前はその呪縛を手にして尚、自由で在れるか?」

 ぼくは男の問いかけに対しただ憎しみをこめた瞳で応じた。

 男は苦笑し

「じゃあな、また会うときを楽しみにしてるぜ」

 男はそういい残して身を翻し、その背中は淡い闇の中に消えていった。




 あれから六年が経った。

 ぼくは小高い丘を登っていた。

 妹と友人に会いに来たのだ。

 ぼくはより沿うようにして立つ二つの墓碑の前に立つ。

 下に埋まっている亡骸はひとつ・・・あのあとぼくはエミリの亡骸を引きずって街から出てこの丘に妹を埋めた。

 その後、ぼくは剣で身を立て、稼いだ金で墓を立てた。

 ひとつの墓碑にはエミリの名もうひとつにはジャンの名が刻まれている。

「エミリ・・・ジャン、士官の話が決まったよ・・・」

 ぼくはもういない二人に語りかけた。

 あれからは剣に打ち込んだ。

 最初は憎しみだけで剣を振るっていた。

 でもそんな中で、新しい・・・命をかけて守るべき人を見つけた。

 そして・・・ぼくは、彼女のために仕官することを決め、ようやく騎士になれた。

 風が、吹き抜ける。

 暫くぼくはエミリとジャンの墓を見つめていた。

「今になって思うんだ、あの人は・・・ぼくに生きろといいたかったんじゃないのかって・・・」

 ぼくは目を瞑る。

「確かにぼくはあの人を憎んだよ・・・でも今思うとその憎しみがぼくを支えてくれたような気がするんだ・・・折れそうだった僕の心を、あの人が救ってくれた・・・そんな気がするんだよ・・・」

 ぼくはそれだけ言って空を仰ぎ見た。

 空は快晴だ、悲しくなるほどに突き抜ける・・・青。

「よう・・・しけた面してるな、クソガキ」

 突然かけられた言葉にぼくが慌てて振り向くと、そこには6年前と寸分も狂わぬ姿であの白尽くめの男が立っていた。

「久しぶりだな、こいつを・・・二人に手向けさせてもらってもいいか?」

 男は言って右手に持った白い花束をぼくに見せる

 白い花は死者への手向けの花……

「ああ・・・」

 ぼくはいって男の前を空ける

 男は棺を置いてしゃがみ込み意外にも丁寧に花を置いた。

「覚えていてくれてたのか・・・?」

「忘れるのが苦手でな・・・それに、背負う覚悟もなしに振れるほどの軽い剣を持ちあわせてねぇんでな」

 ぼくの問いに男は答えて立ち上がり、ぼくと向き合う。

 ぼくはまっすぐ男を見上げた。

「お前のその腰にあるそれも、そうだろう?」

 男の言葉にぼくの脳裏にあのときの言葉が甦る。

(お前はその呪縛をその手にして尚、自由で在れるか?)

「ああ、重いね・・・これは・・・」

 ぼくは腰に提げた剣の柄に手を置き答えた。

 男は満足げにぼくに微笑みを向けるが不意に表情を鋭くし

「・・・やるのか?」

「え?」

 ぼくは意味がわからず声を上げる。

「・・・殺し合いをよ」

 男の言葉にぼくは苦笑する

「いや、もういいよ・・・」

 その答えに男も苦笑を浮かべ

「そうか・・・そいつは残念だ・・・まあ、もう会うこともねえだろ、じゃあな」

ふたたび男は棺を担ぎ、ぼくの横をすり抜けていく。

「また・・・行くのか?」

 僕は男の背中に言葉をかけた。

 男は立ち止まり

「行くんじゃあない、帰るんだ・・・ここは・・・いや、今のあんたはオレには・・・少々眩し過ぎる・・・」

 振り向くことなく男は言ってまた歩き始める。

 ぼくは、男の後ろ姿をただ黙って見送った。

 そして、男の姿が見えなくなったころ

「ありがとう・・・」

 ぼくは言い損なった言葉を呟きまた空を見上げる。

 空は突き抜けるような青・・・

 聖天使の涙が、今日も空を濡らしている。


 やっとこ終わった第三節!
 今回のタイトルも心なしか苦しい;;
 きれいなタイトルだとは思うけど;;
 片手にピストル、心に花束、〜〜
 ピストルは持てなくてもいいから、いつも心に花束を持っていたい銀蛇です(何
 ついでに背中に人生を・・・
 って、そんなかっこいい生き方できn(ry
 
 一説終わる毎に少しお休みをいただこうかと。
次回は・・・いつから始めましょうかね。

気づけばもう4月も終わり……
投稿作品がいよいよ危うくなったらブログ活動完全休止もありえます;
やるとしたら6月か7月になるかと。
一応がんばってはいますが、そうなったときはご理解ください。
自分の夢が今は一番なので(わがまま;




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この記事のコメント
まぶしいっす…!
第3節、終了おめでとうございます!

この章は、アレン君、マシュウ、そして銀蛇さんの文章が目にしみて、まぶしかったです…!
アレン君も大事な人が出来たみたいで、なんかウレシイ。
「どうなっちゃうんだろー」って、なんだかハラハラしましたが、ハッピーエンドみたいでほっとしました。
すこしほろ苦いハッピーエンドと、マシュウの渋いセリフがすてきでした。
2008-04-27 Sun 15:03 | URL | 石和 仙衣 #pcEsqDro[ 内容変更] | top↑
石和 仙衣さんへ
ありがとうございます。

まぶしいとのお言葉、うれしいです。
アレンは最初からかなりひどい扱いをしすぎたので最後は前の二人のい話よりも明るくしたつもりです。
考えてみると、どう転ぶのか非常にわかりづらい小説ですよね;
ほろ苦いですが、悲しみを乗り越えて新しい生き方を見出し歩むアレンの姿にほっとしていただけて幸いです。
完全なハッピーエンドのお話が書けない不器用な人です;;


2008-04-27 Sun 17:36 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
アンジェリカ第3節も終わってしまいましたね。これだけの小説を書くのはホントに大変っす。
知力&体力?をふりしぼらなきゃあ、とても書けない内容だとも思います。
まあしばらくはゆっくり休んで、来る第4節の執筆に全精力を傾けてくださいませ!!また
楽しみに待ってますYO〜!!
2008-04-27 Sun 19:28 | URL | 銀四郎 #-[ 内容変更] | top↑
あぁ、なんてかっこいい終わり方なんだっっ
マシュウさんのかっこよさがにじみ出ています(何

人をころすということはその人の未来を、全てを奪うということ
それゆえにその業は、とても重いモノ
覚悟が無ければ、押しつぶされてしまう

とかいう言葉をどこかで聞いた気がする(だから何

2008-04-27 Sun 23:08 | URL | ウィスペル #-[ 内容変更] | top↑
銀四郎さんへ
ここまで読んでくれていたなんて……感激です!
もういろんなものを搾り出して干からびそうですががんばっております;
今現在新しい投稿用の作品を書いております。
応援ありがとうございます!
2008-04-28 Mon 18:34 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
ウィスペルさんへ
かっこいいとの言葉、ありがとうございますっ
マシュウさんはなかなか出てこないけどかっこいいですよねw
彼には美学みたいなのがあるからでしょうか?(何

人の命って重いですよね。
殺された人の未来もそうですが、周りにいるその人を失った人たちの悲しみもまた計り知れないです。

人を殺した業って、普通の人では背負いきれるものではないのでしょうね……
2008-04-28 Mon 18:56 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
ハッピーエンドでよかったです。

自分の悲しみを糧にして、新しい生き方を見つけることができたアレンには拍手喝采ですね。

第4節も楽しみにしてますね!
2008-04-29 Tue 10:13 | URL | 鳥吉 #026aT6s6[ 内容変更] | top↑
鳥吉さんへ
すこし悲しいハッピーエンドですが、よかったといっていただけて幸いです。

アレン、幸せになるといいですね(をぃ

第四節は今まで出てきた人とかなり違うお人が;


2008-04-29 Tue 19:57 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
マシュウさんが優しく見えた!!
最後はアレンもたくましくなったようで
次回にも期待ですよ!

2008-05-01 Thu 01:20 | URL | 蒼月樹 作也 #JalddpaA[ 内容変更] | top↑
 こんにちは。お元気ですか。
 いつのまにか最終章だなんて、少々あわててしまいました☆
 ラスト、白い花束――はまりすぎてる(笑)
 一抹の風が吹き抜けていったような・・・しぶいラストでした☆ すごく古い、ボギーの映画を思い出してしまい、思わず溜息です。
 何はともあれ、完結おめでとうございます。
 次回への期待とともに、労をねぎらってお祝いのことばとさせていただきます。
 
 
 

 
 
2008-05-01 Thu 16:31 | URL | 紗羅の木 #EBUSheBA[ 内容変更] | top↑
蒼月樹 作也さんへ
優しさは時として厳しさの中に秘めるもの……
かっこつけすぎですね;;;
アレンは無事立ち上がり歩き出すことができました。
次回の視点の人はかなり……;
2008-05-01 Thu 19:29 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
紗羅の木さんへ
こんにちは、お久しぶりですww
このお話もどうにかここまで掲載できました。
白い花束、マシュウに似合いすぎですねw
シブイとのお言葉、ありがとうございます!
映画のワンシーン……確かにそんな感じのラストシーンですね。
このお話、案外静かに終わりますよね。
お祝いありがとうございます。
次回もまたお付き合いください。
2008-05-01 Thu 19:40 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
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