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アンジェリカ 第一節② 失踪(しっそう)
2007-08-11 Sat 14:30
その日の夜、私たちは礼拝堂に集められた。

「今日、シスター・アンの行方が分からなくなりました……」

シスターマリアベルが深刻な顔をして告げる。

 ざわざわと一同から声が上がる

 アンといえば中庭の清掃のとき一緒にいた一人だ。

「静かに、今捜索を行っていますが、情報が得られていません、そこでシスター・アンを見たという方、または不審な人物を見た、という方は私に届け出るように」

 マリアベルはいって解散するよう私たちに言う。

「シスター・マリアベル」

私はマリアベルに声をかける、タニアも一緒だ。

「どうしたんです?」

「私たち朝の清掃のとき変な人を見たんです」

 タニアが言う

「詳しく教えてもらえますね?」

 シスターマリアベルの問いに、私とタニアはあの白尽くめの男の話をする。

「……そうですか、でも、そういう時、これからは人を呼ぶようになさい、さ、今日はもう休みなさい、また寝坊してもいけませんからね」

 言ってシスターマリアベルは珍しく笑みを見せた。

私たちは、彼女の言いつけに従い、その日は床についた。

翌日、朝のミサにもちゃんと出席し普段どおり朝食を摂る。

 しかし私の頭の中は昨日の白い男のことでいっぱいだった.

(あの人とは、どこかで会ったことがある)

 なぜか私は確信的にそう思っていた。

そして私は考えていた。

 あの男と会ったことがあるとすれば、それがいつ、どんな時かを、しかし、いくら考えても思い出せない。

 夢の内容と同じように記憶に靄(もや)がかかる。

「……ト……イト、ケイトッ!」

 タニアの呼びかけに私は我に返る.


「早く行かないと遅れるよ」

タニアに言われ辺りを見回すと食堂にはもう誰もいなかった。

私とタニアは慌てて部屋に戻り、用意をして次の授業の部屋に向かう。

次は応急処置や薬草についての授業だ。

地震などの災害があった場合、教会は避難所としての役割も果たす、そういったときに怪我人の応急的な処置なども私たち修道者の重要な仕事の一つだ。

 実際、このイスタの教会にも有事の際に使う薬草や包帯、家を失った人たちに振舞う食糧の備蓄や毛布が大量にある。

私はこの授業が得意だ。

だが、今日はまったく身が入らない、教師の声も右から左へと抜けていくようだ。

そんなとき、私は何かの気配を感じる、あのいつも見張られているような感覚…それが一瞬 強くなったような気がした。

私は反射的に後ろを向くが、やはり何もいない。

「シスター・ケイト、集中なさい」

「す、すみません」

 教師の言葉に私は慌てて向き直り謝る

 辺りから少し笑い声が聞こえ、私は顔を赤くする.

 結局、この時間は最後まで集中できなかった。

「どうしちゃったのよケイト……気分悪いなら医務室行ったほうがいいよ」

 休み時間、タニアが心配そうに声をかけてくる

「うん…ちょっとね、でも大丈夫」

 私は言って俯(うつむ)く

「ケイトはいつもそういって無理するんだから……どうしても調子悪いんなら言ってよね、無理しちゃだめだよ」

「うん……」

 私は少し笑って頷く

 タニアの優しさが嬉しかった。

「ねぇ、タニア……」

「なに?」

 私の呼びかけにタニアが訊いてくる

「ここに来てからさ、変な感じがしない……?、誰かに見られているみたいな……」

 私は思い切ってずっと感じていた違和感についてタニアにたずねる。
 
タニアは少し難しい顔をして
「……よくわからないけど……ケイトは昔からそういうことに敏感だよね、たぶん教会にいたときより人も増えたし、身の回りもすごく変わったから、そのせいだよ」

「そう……かな?」

 タニアの言葉に私は呟く

「そうだって、ケイトって何気に神経質なんだから、少し私みたいに大らかになった方がいいよ」

 タニアの言葉に私は少し吹き出し

「プッ、そうかもね」

「あー何よー、その“プッ”はぁ」
 タニアは少し怒った顔をし、声を出して笑いだす。

 私も笑った。

 その日、また一人、行方不明者が出た。

②-1
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 それから一週間が過ぎ、行方不明者は五名に上っていた。

 さすがに教会の雰囲気も変わってきている。

 シスター見習いばかりが立て続けに五人も消えればうわさも立つのが普通だ。

 休み時間はその話題でもちきりだ。

 逃げ帰ったという者もいたが、五人とも孤児だったため、行く当てなどないはずだ。

 中には殺人鬼に殺されたというものあった。

 タニアはこういった話題が好きなので、自由時間は私から離れ、熱心に噂を集めている。

 私は、さらにあの“見られている感じ”が強くなったように思っていた。

 というよりは何か、人間でないものの気配というべきだろうか。

タニアの言ったとおり私には神経質なところがある、だが、“何かがいる”と私の本能が告げている。

ふと、私は教室を見回す。

「……タニア?」

 私は小さく声を上げた

 タニアがいない

「ねぇ、タニアを知らない?」

私は立ち上がり、さっきまでタニアが話していた一団に話しかける

「さっきトイレに行くって出て行ったけど」

「ありがと」

 私は短く礼をいい、歩き出す

 嫌な予感がした、どこへ行くにも私と行動を共にしていたタニアが一人でトイレに行くなど普通はない。

 動悸(どうき)が早くなる。

私がトイレに着くと……タニアは手を洗っていた。

「あ、ケイト、どうしたの?」

 手を拭きながら呑気(のんき)に言ってくるタニアに私は肩すかしを食らったような気になり眉間(みけん)に指を当てる。

 心配した自分が妙に腹が立つ。

「……なんでもない」

「あ、もしかして心配した?」

 聞いてくるタニアに私は苛立つ。

「してませんっ」

 言って私は大股でタニアの横を通り過ぎ歩き始める。

「ちょ、ケイト、待ってよ、ごめんってばぁ」

 ついてくるタニアに私は振り向き

「中まで入ってくる気!?」

 私が言うとタニアはシュンとする。

 私はため息を吐き

「いいから、外で待ってて」

 私は言ってトイレの個室に入った。

 そして一つため息をつき、何もせずに出てきたとき、タニアはいなかった。

「待ってて、って言ったのにまったく…」

私は呟いて、教室に戻るが、タニアの姿はない、もう次の授業が始まるころで、全員移動を始めていた。

(部屋にいるのかな……?)

 私はそう思い、自分の荷物を取りに行き、あることに気付く。

 タニアの荷物がそのまま置いてあったのだ。

 私は奇妙に思うがタニアの荷物も持ち、部屋に戻る。

 しかし部屋にもタニアはいなかった、それどころか次の時間に必要なものもそのままある。

(……まさか)

 私の胸に不安がよぎる。

 私は祈るような気持ちで次の教室へ急いだ。

 だが、そこにもタニアの姿はなかった。

 結局、タニアは見つからず、失踪者のひとりとなった。

 その夜、私は独りになった部屋で泣いていた。

夕食は摂っていない、それどころではなかった。

(あの時、意地を張らずに心配したと言って一緒にいればよかった……)

 そんな思いが私の胸を締め付ける。

 そして、この聖地の教会で何かが起こっていると確信する。

「何かが……起こってる」

 私は呟く

 そして、あることに思い当たる。

 あの棺を背負った白尽くめの男だ。
 
 あの男と会ってから失踪者が出始めた、無関係とは思えない。
 
 私はいてもたってもいられず、寝巻きから修道衣に着替え、配布されている外套(がいとう)を引っ張り出して羽織り、教会から抜け出した。

 深夜の聖都は静まり返っていた。
 砂漠の夜は昼の暑さとは打って変わって冷え込む、凍るような夜気に私は身を少し強張(こわば)らせる。

 空には雲も多いようだが満月が懸かっているため視界には事欠かない私は少しの間歩いていて、幾つかのことに気付く。

 考えてみればこの広い聖都のどこへ行けばあの男に会えるのか全く分からない、その上自分はここに来た最初の日しか聖都を歩いていない。

大聖堂は大きな建物なので目立つが、離れすぎると帰ってこられるかは疑問だ。

 私は少しの間迷うが、意を決して都へと繰り出す。

 誰とも全く出会うこともないし、どの店も閉まっている。

 これほど大きな街なら酒場くらいは開いていないかと探すが、どこも開いてはいないようだった。

 私はちょっとした路地に入り、少し歩いて立ち止まる

「……やっぱり、こんな状況で探しても見つからないか」

 私はため息をついて壁に背をもたれる。
 
 そもそも人探しなどしたことがないのだから見つからないのは当然だろう。

 だいぶ歩いたので疲労はかなり溜まっていた。

 そして、私が帰ろうとしたとき

 ズズ……ズズズ

 そんな音が聞こえてくる、何か重い物を引きずるような音、それと共に私の背中を悪寒(おかん)が走る。

 私は息を殺して音が聞こえてくる大通りを窺(うかが)う
 
 今は月が雲に隠れているため、よくは見えないが、そこには、何か巨大な、そして決して人間ではないシルエットが蠢(うごめ)いていた。

 それは、言うなれば巨大な芋虫だ。

 芋虫はふと動きを止め、頭らしき部位を持ち上げ周囲を窺っているようだったが、突然に私のほうに向き、それはこちらに這いよってくる。

 私は恐怖に駆られ路地の奥へと駆け出す。

(あんなものがこの世にいるわけがない)

 私はそう思い、走りながら振り向く

 だがそこには意外にも早いスピードで這い寄って来る異形の姿があった。

 私は走り続けるが、先に目を向けたとき、路地が行き止まりになっていることに気付く。

 私は壁を背に立ち止まる他なかった。

 私を追い詰めた芋虫も止まる。

 そのとき、月の光が雲間から差し込み、辺りが照らし出される。

 異形の姿も例外ではない、照らし出されたその姿は芋虫というよりは蛆(うじ)だった。

 白くぬめったその姿に、私は嫌悪を感じずにはいられない。

 そして、蛆の頭部が三つにわれ、牙がびっしりと並んだ裂け目が現れる。

 まるで悪夢の中のような光景に私は声を出すこともできず、壁をずり落ちるようにしてへたり込む。

 蛆が牙を剥いて私に飛び掛る。

 私はきつく目を瞑り体を硬くする。
 
 その時だった。

 ドガァッ
 
 何かが砕ける音が私の頭上で響く。

 そして、幾つもの硬い破片が私に降りかかる。

 そのまま数秒が過ぎるが、大した痛みも、死も私には訪れなかった。

 私はゆっくりと瞼(まぶた)を上げる。

 私の目に入ってきたのは私の頭上の壁から生えてきた、言うなれば巨大な『腕』だった。

 人間の部位で言えば腕だろうが、決してそれは人間のものではない。

 その腕は暴れる蛆の頭を掴み、軽々と宙に止(とど)めている。

 そして、腕が蛆の頭部を握り潰す。

 蛆から噴出した液体が爆ぜて私に降り注ぎ、私の意識は、そこで途絶えた。



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この記事のコメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2007-08-19 Sun 14:49 | | #[ 内容変更] | top↑
どうもお久しぶりです。
やっぱりかっこいいですね。蛆の表現がわかりやすくて、グロテスクな姿が容易に頭に想像できました。
だんだん道筋もハッキリしてきて、続きが気になる地点ですね。
失礼しました。
2007-08-29 Wed 13:47 | URL | 脳内願望人 #d3xRQPUk[ 内容変更] | top↑
脳内願望人さん
いやあ、かっこいいとの言葉、ありがとうございます。

もっとハートフルなのもかいてみたいような気もするんですけどね。
こんな小説しか書けない人なんですよぅ;
2007-08-30 Thu 18:52 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
はじめまして。
目次やリンクがとてもわかりやすいですね。本編記事はデザインがきれいで文字も見やすかったです。

小説は本格的!すごく書き慣れているように思いました。

はじめ、ファンタジーかと思って読み始めたのですが、これはホラーもの…?という展開でびっくりしました。面白いし、続きが気になりますよ^^

ケイトの過去に重大な秘密があるのかな…?タニアが無事だといいのですが(ホラーだとみな死んじゃったりしますからー(笑
ウジの怪物はいいですねー。では。
2007-10-31 Wed 21:24 | URL | Michi #goVLvfsE[ 内容変更] | top↑
Michiさん
私の巣にようこそ。
お褒めの言葉ありがとうございます。

おっしゃるとおり小説暦は結構長いです。
最初の辺はかなりヘボかったのですが、根性でここまできました;;

ページレイアウトは私自身が物分りが悪い(よく混乱する)という事もあって出来るだけわかりやすいよう組んだつもりです。
文字とかも試行錯誤しました。
読みにくかったら誰も読んでくれそうもないと思ったので;;

ファンタジーではあるのですが、言われてみればホラー色が強いですね;

ええと、あとの展開はお楽しみという事で;;

また来てくださいねww





2007-10-31 Wed 21:47 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
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