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アンジェリカ 第一節⑫ 侵蝕(しんしょく)
2007-09-02 Sun 01:57
ドゴオオオオオオォォォォォォォォ

 突然凄まじい轟音が静寂を破壊し市街地に巨大な影が現れる。

その大きさたるや、もはや比べるべき対象がないほどだ。

 月光を浴び触手のようなものを何本も天に届かんばかりに振り上げ、怪物は咆哮した。

 最初はその大きさに圧倒されたものの、よく見るとその姿は私達がよく知るある虫であることに気付く。

 蠍だ。

 触手に見えたのは尾で、数えてみれば九本ある。

 九本の尾を持つ巨大な蠍が怪物の正体だった。

「ほう、十二使徒ともなればさすがにハデだな……」

 男が場違いな呟きを漏らす。

「あなたは……あれと戦うというんですか!?」

 私は男に問いかける。

 今までの異形の者達の存在がこんなときでも私に少しの余裕をもたらした。

「そうだ」

 男はこともなげに答える。

「無茶です、いくらあなたが人間離れしているとはいえあんな怪物に勝てるはずが……」

 そこまで言った私の顔に赤い布が覆いかぶさる。

 私はそれを手にとって確かめる。

 それは男が額に巻いている布だった。

 男が肩越しに振り向くと、布の巻いてあった額に何かがついていた。

 それは種のようにも見えたが、横に入った切れ込みから目のようにも見えた。

「その布、無くすなよ」

 男はまた蠍のほうを向き

「……蝕(むしば)め」

 男の言葉を合図にその体が劇的に変化し始める。

 黒い根を思わせる太い血管が体から浮き出し全身を這い回るようにして広がっていく。

「グ……グゥゥ」

男が苦鳴をもらすが、黒い血管の侵蝕(しんしょく)は続く。

 ついには全身に黒い血管が浮き出す。

 男が地を蹴ると、足元の地面がえぐれ、爆発でも起こったのではないかと思えるほどの土砂が撒き散らされるが、それも空中に現れた白い炎の文字たちによって防がれる。

 それでも私は手で顔を守ろうとせずにはいられなかった。

 視界が開けたときにはもう戦いは始まっていた。

 遠くで大蠍がその九本の尾を次々と男がいるであろう位置に打ち込んでいるが、ここからではほとんど状況を見ることはできない。

 そんなとき、男がアンジェリカと呼んだ白い大剣の刀身に、何かが映し出され始める。

 男と大蠍・グラフィアスの戦いの様子だ。

 地面は人で溢れている。

 まさに恐慌(きょうこう)状態(じょうたい)だ。

 男は全身に黒い血管を浮き上がらせ、額に開いた第三の目から不吉な赤い光を撒き散らして次々と繰り出されるグラフィアスの尾を屋根から屋根へと飛び移って身をかわす。

 その度に逃げ惑う人々が蹴散らされていく。

 凄まじい光景だ。

 人が、まるでゴミクズのように殺されていく。

 私は思わず目を逸(そ)らそうとする。

『目を……逸らさないで』


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 突然にどこからか聞こえてきた声に辺りを見回すが、誰の姿も見当たらない。

『あなたは、見届けなくてはならない、この戦いの犠牲者であり発端(ほったん)となったあなたが目を逸らしてはいけない・・・』

 私に語りかけてきたのは剣だった。

 女性の、やさしい、だが厳しい声音(こわね)。

 一瞬だけ、見たこともないはずの女性の姿が白い炎の剣とだぶる。

「あなたは……」

 私が問いかけようとしたとき、映像に変化が訪れる

 尾の一つが男をしたたかに打ち据えたのだ。

「!!」

 私は声を上げることもできず驚きに目を見開く。

 しかし、尾はその動きを止めていた。

 男が尾を受け止めたのだ。

 しかも片手で。

 男は不敵な笑みを浮かべ何かをつぶやく。

 空中に赤い光で描かれた文字が現れ蠍の尾が突然に爆(は)ぜ、蠍が咆える。

大気を揺るがさんばかりの咆哮(ほうこう)が響き渡る。

 男はその間にグラフィアスと距離をとり何かを始めている。

 膨大な量の赤い光の文字が男の周囲に映し出され、宙に揺らめく赤い玉が幾つも現れる。

 男が何かを叫んだようだったが聞き取ることはできなかった。

 赤く揺らめく玉はそれを合図に蠍へと襲い掛かり、着弾点で爆発する。

 幾つも轟音が重なり合って鳴り響き視界が土煙に覆われる。

 土煙が晴れて現れたのは尾の数本が破壊されたグラフィアスと片膝を突いた男の姿……。

 男は口から黒い液体を吐き出し咳き込んでいる。

『グハッ、ゲホオッ』

『それが力の代償か……哀れだな』

 大蠍がグラフィアスの声で言う。

『負け犬から……哀れみを……うけるとは、俺も堕ちたもんだ』

 男は苦しげだがその顔にはいつものあの不敵な笑みを浮かべる。

 だが、私にはこの男の笑みの底に隠された悲しみや怒り、痛みを感じずにはいられなかった。

 男の体の傷はすぐに閉じる、しかしその心の傷は、今も血を流している……そんな風に思えた。

 だから男はこの凶暴な笑みを浮かべるのではないか、心の傷を隠すために……。

 私は胸の前で赤い布を握り締めた。

 映像の中で男は戦っていた。

 男は幾度も蠍の尾をその身に受けて吹飛ぶが、その度に立ち上がる。

 その動きは黒い血を吐き出す前に比べれば明らかに鈍(にぶ)い。

 男は咆(ほ)え、一つの尾を破壊する。

 蠍がその巨体をよろめかす。

 グラフィアスも相当なダメージを受けているようだった。

 男はその隙を突きグラフィアスの本体に詰め寄る。

 そして、その体に異形の左腕を突き入れる。

 紅い稲妻がグラフィアスの体中を駆け巡って爆(は)ぜ、傷口から勢いよく黒い血が噴出し、声というには凄まじすぎる絶叫が響き渡る。

 男は二回三回と左腕を振るい、その度に紅い稲妻が迸(ほとばし)り、吹き出す黒が量を増す。

 男は真っ黒な血を浴びその姿を漆黒に染め上げている。

 傷口から立ち上る黒い霧で映像も実際の視界もかなり見づらくなっている。

 男は狂ったように腕を振るい続けるが、その動きが突然に止まる。

 男の腕を、何者かが掴んでいる。

 最初は黒い霧にかすんでその姿は見えなかったが、霧が晴れるにつれてその姿が露(あらわ)になる。

 それは―――――――――



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この記事のコメント
早速
 こんばんは、空野うつろです。
 UPを確認したので早速読ませていただきました。

 対グラフィアスも次回には決着でしょうか。
 最後に現れた何者かの正体が次回への興味を煽るところですが、恐らくは収束に向かっているのだと思います。
 男の名も明かされていない今、まだオープニングの最中なのでしょうけどw

 ともあれ、UPお疲れ様でした。
 来週の日曜も楽しみにしていますね。

 あと、こちらのHPからリンクを張らせていただきました。
 ご確認ください。
2007-09-02 Sun 03:33 | URL | 空野うつろ #u2K4tJu2[ 内容変更] | top↑
アップした⑫を読まさせていただきました。
こ、この気持ちは!!
この引き込まれる感は、ムシウタやレギオスに似ている!!
 ※むっちゃ楽しいということです
早く続きが読みたいですね。では、また。
2007-09-02 Sun 15:12 | URL | 紅影死神 #-[ 内容変更] | top↑
空野うつろさん
早速読んでいただいてありがとうございます。
正に第一節はクライマックスでございます。
何者かの正体も乞うご期待ですよ。

紅影死神さん
お褒めの言葉、ありがとうございます。
そう言っていただけると書いた甲斐があるというものです。
次週もお楽しみに!


2007-09-02 Sun 15:50 | URL | 銀蛇 #-[ 内容変更] | top↑
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2007-09-04 Tue 19:23 | | #[ 内容変更] | top↑
中盤辺りから、ぐっと引き込まれました。
やはり戦闘シーンというのが上手いですなぁ、ホント。

う~ん、何かいいことを書こうとすると文章が支離滅裂するOTL
文章がおかしいだけ、面白いと感じてるということで(ぁ
※つまりいつもおかしい僕は(ry

日曜が楽しみです^^
2007-09-06 Thu 19:40 | URL | ベーコン #a2PHbR9c[ 内容変更] | top↑
ベーコンさん
バトルシーンくらいしか能がないので^^;

私もいつもおかしいので無問題b(だからだめだって)


2007-09-06 Thu 20:21 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
あえて、バトルシーンを極めてしまうとか…。
=ただの喧嘩になりますねw
2007-09-06 Thu 23:12 | URL | 紅影死神 #-[ 内容変更] | top↑
紅影死神さん
おお、そうかバトルシーンばっかりでひたすら……
=多分読んでて息切れしますよ?
2007-09-07 Fri 07:14 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
さすがです。
「お見事!」としか言えないこの戦闘描写・・・!!!

物語の中に引き込まれざるを得ないという感じです。

自分もこんな戦闘シーンを描けたらなぁ・・・と思いました。

というか、みんな台詞かっこよすぎですって!

続き、楽しみにしてます。

(遅くなりましたが、リンク張って頂き、有難うございました。)
2007-09-08 Sat 17:17 | URL | 鳥吉 #026aT6s6[ 内容変更] | top↑
鳥吉さん
こんな在野のヘボ物書きにはもったいないお言葉、感涙です(TAT)

この台詞のセンスが分かるとは……
かなかに渋い趣味をしてますね(+ー+)キュピ-ン

同系の物書きさんってことは分かってましたけど^^;
これからもよろしくお願い致しますm(_ _)m
2007-09-08 Sat 19:55 | URL | 銀蛇 #2Tva8WmY[ 内容変更] | top↑
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