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アンジェリカ第二節12 裁き(さばき)
2007-10-20 Sat 19:00
 翌日、また被害者が出た。

 無論姉を殺した犯人の一人が犠牲者だ。

 この世にありえないほどに鋭い刃で体中を細切れにされて発見され、護衛についていた人間も全員殺されていたらしかった。

 これで姉を殺した犯人は残り二人となった。

 父はまだ捕まっておらず、エリックも犯人として疑われ始めているようだった。

 犯行時間は決まって夕方、彼らが遊郭や酒場に繰り出す途中を襲っていた。

 恐らく今日から彼らは外出禁止となるだろう。

 僕は、殆ど確信していた、犯人は……父だ。

 あの偽神父たち二人が何者だったのかは結局分からなかった、だが父に会えば何かが分かるのではないか……そして、何よりこれ以上父に罪を重ねてほしくはなかった。

 僕はその日の夕方こっそりと家を出た。

 空は赤黒い血の色のように不気味な色に染まっている。

 逢う魔が刻……こんな夕暮れ時のことをそう呼ぶと父は言っていた、こんな夕方は誰も出歩かないため通りは静まり返っている。

憲兵はどうやら被害者の候補の警備に全て回っているらしく、僕をつけてくるような気配はない。

 それでも僕は出来るだけ暗い道を選び、複雑に入り組んだ通りを細心の注意を払って歩いた。

 そして、目的の貴族の屋敷に着く。

 今日残る二人の内どちらが狙われるかは分からなかったし事件が起こるかどうかすらわからない、ゆえに僕はヤマを張ったのだ。

 僕はゆっくりと建物に近付いていくと、壁にもたれかかっている憲兵が目に入った。

 僕は慌てて隠れるが、どうも様子がおかしい。

 僕はゆっくり憲兵に近付き、じっと彼を見ると、その腹に剣が深々と突き立っていることに気付いた

僕は思わず声を上げそうになるが、何とかそれはこらえた。

憲兵は確かめるまでもなく既に事切れていた。

「なんだよ、これ……」

 僕は呟いた。

 憲兵の死体は剣で石壁に縫い付けられていたのだ、剣の柄まで腹に埋まっている

 人間に出来ることではない。

 僕は唾を飲み込んで屋敷を見上げた。

 窓から明かりが漏れているものの、妙に静かだ、それがいっそう不気味さを増していた。

(ここで、何かが起こっている)

 僕は確信して屋敷に足を踏み入れた。

 玄関の大広間は一面の赤とむせ返るような臭い、そして静寂に包まれていた。

 僕はその凄惨極まりない光景に一瞬気を失いそうになる。

 見渡す限り死体、死体、死体…………

 全員が腹の辺りで両断されている。

 凄まじい切れ味の刃物でこの広間一面を薙ぎ切れば、こういう景色が生まれるかもしれない。

 いや、そうしたのだろう、壁には刃物が通ったことを物語る傷がついている。

 だが、それにはどれ程の長さと切れ味を併せ持つ刃物が必要なのか、想像もつかない。

 僕は少し躊躇したが、血溜りを踏み越えさらに奥を目指した。

「ぎゃあああああああああああ!!」

 そのとき、奥から凄まじい悲鳴が響き渡った。

 僕は思わず体を硬直させる。

 だが、次の瞬間に僕は走り出していた。


 幾つもの部屋と階段、幾つもの死体を踏み越え、僕はついにそこに辿り着いた。

 窓から差し込む血の色の夕日の中で片腕を切り落とされのた打ち回る男、それは姉を殺した犯人のうちの一人だった。

 そしてもう一人、血にまみれた剣を右手に提げた後姿、それは……

「父……さん……」

 それは紛れもなく僕の父、ケイン=ストライフだった。

 父は僕の声に振り向く。

 こけた頬、痩せ細った体、だが目にだけ爛々と光を宿したその姿はまるで幽鬼だ。

 父はにんまりと笑みを浮かべる

「おお、ウェイン、来たのか……見ているといい、今フローラの仇をとってやるからな」

 言って父は足元でまだのたうっている男の足めがけて何の躊躇もなく剣を振り下ろす。

 男の足は、まるで冗談のように切断された

「ぎゃあああああ!!!」

 赤い血が吹き出し大きな悲鳴がまた響き渡る。

「わざわざ私の血を飲ませて死ににくくしてやったんだ、もっといい声で鳴いてくれよ」

 父は言って軽く剣を振るうと、男の耳が宙を舞った。

「ああああああああ!!」

 地がさらに絨毯を赤く染め、また男が喚く。

「父さん、もう止めてくれ、そんなことをしても姉さんは帰らない!」

 僕は父に訴えた。

「わかっているよ……そんなことは」

 父はあくまで冷静に答える。

「なら何故?」

 僕の問いに父は三日月のように口の端を吊り上げ笑みを作る。

 それは尋常な人間の出来る笑い方ではなかった。

「法は……彼らを裁かなかった、咎人である彼らを……ならばどうすればいいか……答えは簡単だ、私が法になり裁けばいい、彼らに相応しい罰を私自ら彼らに与えればいい」

 父は言って容赦なく断罪の剣を男の首に打ち下ろさんと振り上げた。

 ガシャアアアアアアン

 それは突然だった。

 窓に嵌められたガラスが爆ぜるように割れ、部屋に影が舞い降りる。

 血の色の夕日に映し出されたそれは、あの白尽くめの男だった。

 顔には獰猛な笑みを浮かべている、夕日の赤で染まった髪に縁取られたその表情は凄絶なものに見えた。

「やっと会えたな、探したぜ……こないだは世話になったな」
 



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